本荘院住持と直茂公

本荘院住持と直茂公

■所在地佐賀市本庄町
■年代近世
■登録ID762

早朝、藤嶋生益の所へ鍋島家祈願所の本荘院住職が来て「今朝、ご本尊の御身体を拭こうと思い、宝殿を開いたら、御首が落ちておりました。早々に申上げるため、御首を持参いたしました」と袈裟の包みを差し出した。生益は「御首はご覧なされるものでないから持ち帰って下さい。お話のこときっと申し上げます」と言って出仕し、直茂公に申し上げた。
すると直茂公は「さてさてなんと憎い坊主が予を騙そうとすることか、ただちに捕手を召しつれ拷問にかけて本当のことを白状させよ」と大変なご立腹であった。生益は訳がわからず「お家のおんためを思い申し上げに参りましたのを拷問にかけるなどとは、どんなものでしょうか」と申し上げたが、「その方は出来ぬようだ。他の者に申しつける」とことのほかお叱りになった。
「出来ないわけではございません。そのようにお考えならば、住持に会って手をとり、直茂公が、ご立腹で拷問にかけようと仰せられた」と伝えたところ「それは迷惑なこと、お怒りは理解できない」と言う。さらに生益が「出家の身で不浄役人の拷問を受けてからの白状は見苦しいことだろう」と言ったので、住持も「しからば正直に申しましょう。ご本尊を拭いたところ、ご身体が動いたため、お首が落ちましたので、ふと思いつき先のように申し上げたら、ご造営もなされ、寺も栄えるだろうと思って申し上げました」と白状した。生益は急いで帰り白状したとおり申し上げると、直茂公は前と違ってお笑いなされた。生益は大いに怒って、「私を騙した遺恨晴しに磔にかけたいと思いますので、私にくださいませ」と申し上げた。
直茂公はますます笑い出されて、「その方は最初本当だと思ったため今腹を立てておる。予は、やつの企みを見破ったのでその時は腹立ったが、今はそうでもない。かの坊主め、この間予の神詣でのたびに寺に寄ってくれと申していたので一度立ち寄ったところ、吸物を出しおったが椀の底に土がついていた。そうしておいて頭を地面にこすりつけた。ありがたいことだなどと申しおった。心からありがたいと思うならば、予に出す膳は入念にする心遣いがなくてはなるまい。売僧(バイス)め許しておけないやつと日頃から思っていたが、とうとうこのようなこと謀りおったのだ。しかし祈願所ではあるし、ただ住持を代えるだけにせよ」と仰せられた。生益はすっかり恐れ入ったという。(葉隠聞書より)

出典:かたりべの里本荘西分P.38本荘の歴史P.23