苣木のきつね狩り
苣木のきつね狩り
■所在地佐賀市富士町大字苣木
■登録ID2893
むかし、むかし、て言うても、今から百年ばかい前の話たんたあ。
苣木に、弥助さんと定さんて言う二人の猟師さんのおんさったて。
ある日、二人で山さん狩りに出かけて行きんさったばってん、思うたごたっ、物にあいつかあじ、がっかいして、家に帰ろうで支度ばしよんさったて。そん時、ひょっと向かいの山ば見た定さんが、
「おい、弥助さん」
「なんかい」
「しいっ、太か声ば出しやんな、あの石ん上ば見てござい」と、声ば低うなして、弥助さんに耳打ちばしんさったて。なんじゃろか、と弥助さんも、定さんの言うた方ば見んさったぎ、小松のそばの太っか石ん上、大ぎつねのデンと座っとったて。
「ほんなごと、ありゃあ太かばい、よか獲物にあいちいたない」て。二人ながら、よっぽい喜んで、どがんして捕ゆうか、て相談しんさったて。
きつねは、そがん二人にゃあ、いっちょでん気づかあじ、じゅうぐるいば見回しよったて。
弥助さんは、
「あのない定さん、こりゃあ人から聞いた話ばってんが、きつねちゅうたあ、よっぽど踊いば好いとって言う話ばい」
「ほんなごてや、そんないば……」て言いながら、定さんは着とった着物ば脱いで、そいば頭からすっぽいかぶって、おおまんに、手だれ足じゃれで踊いながら、きつねに近づいて、踊い続けんさったて。そいぎ、きつねは、その踊いのよっぽい気にいったとじゃろう、用心すっとも忘れて見とれとったて。その間に、弥助さんがわからんごときつねに近づいて、
ズドーンと、一発で見事に仕留めんさったて。
そして、弥助さんと定さんな、おお喜びで、大ぎつねばいのうて山ばおりて行きんさったて。
苣木集落の前を字名で向野と言うが、そこには狐定平と言う平らな山があり、その時につけられた名だそうである。 (苣木 原ケサグリ)
出典:富士町史下p.617〜p618