おかねばあさんの佐賀見物

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おかねばあさんの佐賀見物

■所在地佐賀市富士町大字小副川(須田)
■登録ID2895

 むかし、須田の東古賀におかねさんて言う九十五才になっ、おばあさんのおんさったて。
 その、おかねばあさんな、よっぽい元気か人やったばってん、佐賀ん町いっちょは、いっぺんでん見たことのなかったて。
 ある日、孫息子が、おかねばあさんに、
 「ばあさん、おとんの佐賀ん町ば、いっぺんでん見たことなかて言いよったけん、今日つれて行こうだん」て言わしたぎ、
 「ほんなごてや、おいば、佐賀ん町さん連れて行たてくるってや。そんないば、冥土のみやげえ行たてみっか」と、準備ばして二人で出かけらしたて。
 そいから、二人で話しどんしながら、歩いて行たて、ちょうど昼頃尼寺に着かしたて。
 おかねばあさんな、珍しかもんじゃ、きょろきょろしたて。そいぎ、そこに、白うして、四角っかとに、「あめがた」て書いちゃったて。そいば見たおかねばあさんな、腹ん減っとったもんじゃカブッと、かぶいつかしたて。
 店ん人は、びっくいして、
 「あめがたは、こっちいあっばんた、そりゃあ看板じゃっけん、うち食わあじおってくんさい」て言んさったて。
 「そがんなんた、白うして、四角っかったもんじゃ、あめがたてばっかい思うとった。そいけん、えりゃあ硬かったもんなたあ。そんない本物のあめがたば、四、五本くんさい」
て言うて、おかねばあさんはあめがたば、五本も食べらしたて。その上、今度はうどんば二杯も平らげてしまいんさったて。
 そいて、腹ごしらえもできたもんじゃ、又、二人で佐賀さん歩いていきんさったてっ。
いっとき歩いてから孫息子が、「ちょっと、よくおうかなんた、おばあさんなきつかろうもんじゃ」
 「そうない、佐賀ん町迄もそがん遠うなかないちょっとよくうていこうか」と、道ばたに二人で腰かけてから、おかねばあさんのびっくいしたごとして、
 「こりゃあ、田ん中の広かない、日本国ちゅうぎ、ここんこっば言うとじゃろう」と孫息子に言いんさったて。そいぎ孫息子は、
 「おばあさん、日本国ちゅうたあ、ここんふた広さあっばんた」
て言わしたて。
 そいから、又佐賀さん歩いて行たて、着いた時は、もう、薄暗うなったもんじゃ見物は明日ん事にして、宿屋に泊んさったて。
 宿屋で、そこの主人さんの、おかねばあさんに、
 「おばあさん達ゃあ、どっから来んさったかんた」て聞きんさったぎ、
 「わたしゃあ、須田町ちゅう所からたんた」て言いんさったもんじゃ、
 「須田町かんたあ、古湯ては聞いた事のあっばってんが、須田町ては聞いた事のなかなんたあ」て、首ばかしげんさったて。
 そいから、晩めしには、ぼた餅ば出しんさったて。そいぎ、おかねばあさんな餅ば好いとっもんじゃ、太かぼた餅ば、二つ食べてから、
 「もういっちょ、餅ばくんさい」て言うて、三つも食べんさったて。
 そいば見た宿屋の主人は、
 「おばあさんな、元気かなんたあ、そして、食のいけもすっ」と、あきれてしまいんさったて。
 あくる日、おかねばあさんと孫息子は、佐賀ん町ば色々見てまわい、帰りいは、人力車に乗っことしんさったて。人力車に、初めて乗っ、おかねばあさんな、
 「私ゃあ、下等でよかけんが」て言うて、足のせの所にすわろうでしんさったて。そいぎ、車屋さんのびっくいして、
 「そこじゃなかばんた。そけえ乗んさっぎ、車ば引く時きつかけんが、上の方に座ってくんさい。下でん、上でん、値段は同じばんた。」て言いんさったもんじゃ、
 「値段の同じないば、遠慮なしい上等にお世話なろう」て言うて、いすの所にすわんさったて。
 そがんして、川上まで人力車で来て、そこから、又二人で須田さん歩いて、帰ってきんさったて。        (須田  高柳文六)

出典:富士町史下p.620〜p623