かっちゅうときつね

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かっちゅうときつね

■所在地佐賀市富士町
■登録ID2891

 むかし。
 お宮のぎんなんの木のちょっぺんに、かっちゅうの、巣ばかけとったって。
 そして、そこで玉子ば生んで温めとったぎ、その晩、きつねの来て、ぎんなんの木の下から、
 「おい、こりゃあ、かっちゅう、おいに卵ばいっちょくいろ。くれんぎんと、そこまで登って来て、わがまでうち食うじゃ」て言うて、脅すもんじゃ、しかたなしいかっちゅうは、卵ばいっちょきつねにやったて。
 そいぎ、そいからきつねの味くろうて、毎晩、かっちゅうの所さい来て、
 「おい、かっちゅう、卵ばいっちょくいろ、くれんぎんた、わがまでうち食うじゃ」
て言うて、いっちょづつ卵ばおっとって帰いよったて。そいもんじゃ、かっちゅうの巣の中にゃあ、とうとう卵のいっちょしか無かごとなったて。
 かっちゅうは哀しゅうして、哀しゅうして、巣の中で泣きよったて。そいぎ、そこさい、しらさぎの飛んで来て、
 「なしそがん泣きよっかい、ないしたかい」て言うて、かっちゅうに、わけば聞いたぎ、
「きつねの毎晩来て、卵ばいっちょづつ、おっとって行くもんじゃ、とうとういっちょになってしもうた。そいけん哀しゅうして泣きよっ」て言うたて。しらさぎは、
 「なんてそがんやっかい、やらんぎよかやっかい」て言うたて。かっちゅうは、
 「そいばってん、卵ばくれんぎ、木に登って来て、わがまでうち食うじゃ、てきつねの言うもんじゃ」そいぎ、しらさぎは笑うて、
 「ないてきつねのぎゃん所まで登ってきゅうかい、ありゃあ、なすびの木に、はしご掛けたっちゃあが、登いきらんとこい。今度、きつねの来て、脅したこんな、おい、きつね、登いきっないここまで登って来い。そいよいか、まあだよか事ば教ゆうだい。中原峠の堤にゃ、三尺ぐりゃあの鯉の魚のおっ、そこさい行たて、堤の中に尻尾ば入れとっぎ、じきと尻尾に鯉の魚のかかっけんが行たてみろ。て言え」て教えたて。
 そいぎその晩、又きつねの来て
 「かっちゅう、卵ばいっちょくいろ、くれんぎんた、わがまでうち食うじゃ」て言うもんじゃ、かっちゅうは、しらさぎから教えてもろうたごと、
 「おい、きつね、登って来いゆんないば、ここまで登って来い」て言うたて。そいぎきつねは困って、
 「いつおいがそぎゃん、登って来って言うたか」て言うたて。そいぎ、かっちゅうはきつねに、「まあだよか事のあっ、中原峠の堤にゃ、三尺ぐりゃあの鯉の魚のおっ、そこさい行たて堤の中に、おとんの尻尾ばつけっとぎ、じきと鯉の魚のかかってくっけんが行たてござい」て言うたて。そいば聞いたきつねは、喜んで中原峠さい駈けて行たて、じいっと堤の中に尻尾ばつけて、鯉の魚のかかっとば待っとったて。そいばってんが、いくら待ったてちゃ、いっちょんかからんやったて。
 欲のきつかきつねは、
 「一匹ぐりゃあは釣らん事にゃ。」と、又じいっと待っとったて。そいぎ、そのうち雪の降って来て、だんだん堤の凍って来たばってん、きつねは鯉の魚ば釣ろうで頑張っとったて。そいもんじゃ、とうとう堤には氷の張って、尻尾の凍いちいて、動かれんごとなってしもうたて。
 そして、あくる日、その中原峠の堤さい来た人間に捕ってしもうたって。
 (麻那古 嘉村秀一)

出典:富士町史下p.607〜p610