野狐のなまず

野狐のなまず

■所在地佐賀市西与賀町
■登録ID212

私はのまい、あの、太かことばっかい言うばってんが、なまずのさい、人間の頭ぐりゃあいのなまずの、私が流れうけつけとったとにはいったことのある。そいも鍋島おっときくさんたぁ。
長雨(ながせ)のうち、まぁ、よぼいしぎゃ行たわけ。田ん中、あがっことしとんもんじゃのまい。そして、うけばつけとったさい、流れうけば。そいぎ、帰ぇがけ、あの、めかけぞうけば、あの、てぼに持って行たとったもん。そして、うなぎてぇろん、鮒てぇろん、でぼに入れとったもん。そして、帰ぇがけ、もう流れうけ鮒の入っとろにゃあと思うて、こう、開けでみたたんたぁ。
そうしてみたところが、もう、ゴトゴトゴトで、もうえすかごと音さすんもん。こりゃあ、なんじゃい太かとの入っとっばいねぇ。もう楽しゅうであげてみたわけ。そうしたところが、こうして見たぎにゃあとは、その、なまずの入っとんもん。太かもんのまい。がん太かもん。そいぎ、こりゃどういうなまずかと思うてさい、そうして、野菜かごたんたぁのまい、あいばでぼに持って行たとったもんじゃい、尾ば取ってみて、そうして野菜かごの中ゃあ、尾ば入れて、こう、うけばかけたわけ。ガタガタっとして、ありゃあ、俺が取ったとまでちん逃げたとは太かったとこれぇにゃあて、思うた。両わきの田ん中も水のはいっとんもんのまい。あぜのこうしとっところの、溝につけとんもんじゃん。こうして受けたぎ、バタバタバタってして、こいまで転ばぁきゃあて、そして、やっとったとまで全部やられた。そいぎ、全部出てしもうた。
そうして、残っとったとは、こいくりゃばっかいのなまずがさい、1匹残っとんもんの。そがんとは残らんたっちゃよかったとこれぇ、ほんに惜しかったにゃあ。また、そいがのぼってくっくさと思うて、またつけてぇていたわけ。あんまい先さぁいかんけんがぁと思うて。あぁ、もうどうしゅうかぁ。待っとっ筈じゃこんもんじゃあと思うて。そうして、帰ったんたぁ。
そうして、帰って、なんもかんも、なまずの1匹じゃんもんじゃい、こうまかこいくりゃあんとの1匹しか残っとらんもん。そいぎ、「太かなまずの入っとったばん。こいくさ俺が頭のごたっとの入っとったぁ」ちゅうて、「そがん太かなまずのおんもんかぁ」ちゅうて、親父がやかまし言うて、「わが今のまでそがんしとんない、わが、やられとっじゃあ。つけられとっじゃあ。そいけん、早よう帰って来んばぁ」ちゅうて、あっちゃごし小言いわれた。なんて小言いいよっかにゃあと思うて、なんのその、野狐から騙されとっちいう意味たんたぁのまい。なまずになって、あとから話聞いたぎ、野狐が。そいぎ、目の真暗うなって、川の中にはい込んだいすっらしか。

出典:西与賀の歴史とその周辺p75