糸脈同心(その他の話)

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糸脈同心(その他の話)

■所在地佐賀市川副町
■登録ID2093

 むかし。
 あるところに医者が住んでおったと。
 その医者は、直接に病人の手を握って脈を測らないでも、病人の手に糸を結んで、その糸を引張っておれば、病名がわかるというほどの名医だった。その医者は、たいへん繁盛して糸脈同心と呼ばれていた。
 ある日、糸脈同心の評判が殿様の耳に入った。殿様は、糸脈同心を城に呼び出して、
 「お前、糸ででんわかっ。姫の病気を治してくれ。もし、治しきらんやったら、お前は打ち首ぞ」 と、酷いことを言い渡された。
 糸脈同心は、打ち首になってはと、たいへん心配になった。糸脈同心は、どうしたらよいだろうかと思っていると、家来が隣の部屋から糸を引張って持って来た。家来は、その糸を糸脈同心に手渡した。すると殿様は、
 「さぁ、おまえは糸でわかるはずだ。姫の病気を治してくれ」と言った。
 糸脈同心は、その糸を握っても、どうしてもわからなかった。そして、どうも人間の脈とは違うことを悟った。ところが、糸脈同心は、わからないと言うと、打ち首になるから、いろいろと考えていたところ、
 「あぁ、わかった」と、殿様に言った。ちょうどその時、ねずみが天井から落ちてきた。糸脈同心は、そのねずみを取りあげて、
 「病人には、これを食べさしてください」と言って、それを殿様に差し出した。
 殿様は、糸脈同心の名医ぶりを試そうと、糸を姫の手にではなく、猫の手にくくらせていたので、
 「おまえ、なるほど名医だ」と申された。そして、殿様は糸脈同心に褒美をくださった。
 そいばあっきゃ。
               (下早  古賀八郎)

出典:川副町誌P.912〜P.913