継子と尺八(葛藤)

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継子と尺八(葛藤)

■所在地佐賀市川副町
■登録ID2087

 むかしむかし、大昔。
 あるところに、姉弟とお父さんが住んでおったと。
 ある日、お父さんは後妻を貰った。そして継母は、姉弟を憎むようになった。そんなこととは知らずにお父さんは、弟に硯、姉に鏡のみやげを買ってくるという約束をして、京都へ商いに行った。
 継母は、お父さんが留守にしたので、これ幸いとばかりに2人の子供を味噌釜に入れて炊いていた。そこへ虚無僧さんが通りかかり、
 「あんたぁ、何炊きよっ」と言った。継母は、
 「味噌豆炊きよっ」と言った。すると虚無僧さんは、
 「あぁ、味噌豆炊きよんないば、私も少しいただこうかぁ」と言った。継母は、
 「いんにゃあ、まぁーだ煮えとらん。そいけんがあの、煮えとらんけん」と言った。虚無僧さんは、
 「そんないば」と言った。
 虚無僧さんは、その家を立ち去り7里ぐらい歩いた。それでも虚無僧さんは、味噌豆のことが妙に気にかかり、その家へ立ち戻った。そして虚無僧さんは、
 「もう、味噌豆は煮えたじゃろうか」と言った。すると継母は、
 「なぁーい。もう、煮えてしみゃあになった」と言った。虚無僧さんは、
 「おかしかねぇー。あってんが、そんときまじゃあ、『どがんでん煮えとらん』ち言うて、もう煮えてしもうたかにゃあ」と言った。
 継母は、すでに2人の姉弟を茹殺して、裏の竹やぶに埋けてしまっていた。だから、味噌豆は7里も立ち戻って食べるもんだと。
 それから数年後、虚無僧さんはその家へ立ち寄った。継母は、
 「うちゃあ、あの、裏に竹の生えたよ」と言った。すると虚無僧さんは、
 「その竹ばいっちょ見せてんござい」と言った。継母は虚無僧さんを案内すると、
 「こりゃあ、きれいな尺八竹たぁ。こい1本、私に相談なでけんじゃろうかぁ」と言った。継母は、
 「なぁい、よかろう」と言った。
虚無僧さんは、竹を切って尺八を作り吹いてみると、
 ♪京の硯は いぃやいゃあ
  京の鈍も いぃやいゃあ
  父ちゃんうれしや チンチロリン
  嚊さんうらめしや チンチロリン
と、いう歌が流れた。虚無僧さんは、
 「やれ、不思議や。ありゃあ、どうした不思議な竹じゃろうかぁ。この竹の生えかげんば、いっちょ教えてくいろう」と言った。すると継母は、
 「この前、あなたのお出んさっ時、炊きよったとは、この子供ば炊きよった。そいけんが、そけぇ葬ったぎんと、こぎゃん竹のきれいに生えたけん、あなたの尺八ばあげぇくんさったぎ、そがな声のしよっ」と言って、白状した。
 やがて、京都からお父さんが戻って来た。お父さんは、
 「うちの誰かしと、誰かしは何処えおっかぁ」と言った。継母は、
 「向こうにき遊びぎゃあ行たとっ」と言った。お父さんは、みやげを子供に早く見せて喜ばせてやりたかったので、
 「ほんなこてぇ、京の硯も買うて来た。京の鏡も買うて来たけん」と言った。
 継母は、どうすることもできなくて、よその子供を2人連れて来た。お父さんは、
 「そい、うちの子じゃなか。こやもう、隣のにきの子供ば連れて来たっちゃあ、うちの子じゃなかばい。うちんたぁどがんしたかい」と言った。継母は隠しきれなくなって、虚無僧さんに白状したとおり、お父さんに告白したげな。
            (下ノ小路  本告ヨシ)

 

出典:川副町誌P.903〜P.905